「幽霊の正体見たり枯れ尾花」ということわざがあります。
幽霊だと思って怖がっていたところ、あらためてよく見ると、実はススキの穂であったという意味です。
「怖がるばかりでは現実がゆがんで見えますよ。実態を確かめてみると、案外平凡なものですよ」ということを諭したことわざです。
このことわざには、元になったとされるネタがあります。
江戸時代の俳人・横井也有の俳文集『鶉衣』にある「化物の正体見たり枯尾花」という句が変形したものとされています。
実態がわからないと、悪い妄想が膨らんで疑心暗鬼になり、普通のススキですら恐ろしい幽霊に見えてしまうのです。
「幽霊の正体見たり枯れ尾花」ということわざは、不安を感じたときの対処を考えるうえで参考になります。
私たちは得体の知れないものがあると、悪いほうに考える傾向があります。
「良いことがあるかもしれない」と考えることは少ない一方で「悪いことがあるかもしれない」と考えることのほうが多い。
よくわからないものがあると、自分と守ろうとする本能が働いて、ひとまず悪いほうに考えてしまうのです。
しかし、不安を感じたときこそ、目をそらさず、じっくり見ることが大切です。
実態を確かめてみると、意外と平凡なことであることに気づかされます。
典型的な例で言えば、老後の不安です。
メディアでは、老後の不安をあおるような報道がたくさん流れています。
「私の老後も心配だ。大丈夫だろうか」と、どんどん悪いほうに考えてしまいます。
しかし、ただ不安がるではなく、自分の場合、実際老後にどれだけのお金が必要なのか、具体的に計算して見ることが大切です。
老後にかかるお金がわかれば、必要な貯蓄もわかります。
必要な貯蓄がわかれば、逆算思考で今すべきことも見えてきて、どんどん不安が小さくなっていくのです。
準備することがあるなら、今のうちにすべきこと・できることを実行に移します。
どれだけ長生きするのかわからなければ、余裕を持ったプランを立てればいいことです。
複数のパターンが考えられるなら、それぞれのプランを立てればいいだけの話です。
少々手間は増えますが、大したことではありません。
自分一人だけで考えるのが難しいなら、ファイナンシャルプランナーと相談する手もあります。
実際詳しく調べてみると、意外と大した問題ではないことに気づかされることが少なくありません。
「なんだ、たったこれだけのことか」と拍子抜けするのです。
厳しい現実があるとわかったとしても、具体的な数字がわかるだけでも、精神的な負担は軽くなります。
漠然とした不安を抱えたままでは解決しません。
「幽霊の正体見たり枯れ尾花」です。
不安があったとき、目をそらすのではなく、正面から向き合ってじっくり正体を探ってみることが大切です。
原因と解決策がわかれば、不安はあっさり解消されます。
「なんだ、単なるススキの穂じゃないか」と拍子抜けするのです。