料理の多くには、卵が登場します。
私も小さいころから母が料理をしているのを見ていて、卵を割っているのを見たことがありました。
卵を割る光景は、何か独特です。
卵をキッチンのかどに、こんとぶつけて、ひびを入れます。
その瞬間、卵が割れ、白身と黄身を上手に取り出します。
わずか数秒。
料理では当たり前に登場する卵を割るシーンですが、子どもから見ると、マジシャンの手さばきを見ているかのような感覚でした。
かっこいいし、興味を引かれる光景です。
そんなある日、母から料理を手伝ってほしいと言われました。
しかし、私はまだ身長が低く、キッチンの蛇口すら手が届かない状態です。
何を手伝うのかと思っていたら「卵を割るのを手伝ってほしい」と言われました。
「うん、やるやる」
喜んで仕事を引き受けました。
どのくらいの強さで、卵をかどに当てればいいのか、動揺しました。
強すぎると、卵の中身が飛び出してしまうし、弱すぎると卵にひびが入らない。
微妙な力加減が必要です。
何度か力加減に手応えを感じて、卵にひびを入れ、子どもなりに何とか卵を割って中身を取り出しました。
「やった。できたぞ!」
達成感は、大きなものがありました。
目に見えて、その達成した結果が見えます。
母のように手さばきよくこなせたわけではありませんが、初めて料理のために卵を割ったときは嬉しくてたまりませんでした。
それだけで何か大きなことを成し遂げたような気がしました。
母も「上手にできたね。すごい」と褒めてくれました。
私は生まれて初めて卵を割ったときのことを、今でも覚えています。
そのくらい嬉しかったし、妙な自信をつけられました。
そう考えると、子どもに自信をつけさせるのは、実に単純です。
卵1つで、自信をつけさせられます。
今思えば、あのとき母は、子どもに自信をつけさせるため、あえて卵の手伝いをさせたのかもしれません。
卵を割るのは、小さな成功体験の1つです。
ぜひ、子どもに料理の手伝いをさせてください。
もちろんいきなりすべてをやらせるのではなく、卵を割る仕事を手伝ってもらえばいい。
たとえうまく卵を割れなくても、子どもが大けがをする心配は小さいと考えていいでしょう。
また、たとえ卵を割るのに失敗したとしても、卵1つの値段は大きなことではありません。
子どもが卵を割ったとき、親は「上手にできたね。やればできるね」と少し大げさに褒めてあげましょう。
子どもは自信をつけるに違いありません。
まさに、コロンブスの卵。
子どもに自信をつけさせるのは、卵1つで可能なのです。