どんな家庭でも必ずしつける代表といえば「物は大事に扱いなさい」です。
おそらくあなたもわが子に対してしつけた経験があることでしょう。
壊れたら、買い直さなければなりません。
経済的な面から考えても、物を長く大事に使い続けることは、多くの親が同意するはずです。
しかし、その一方、親が子どもに与えるものとしてはどんなものでしょうか。
経済面や安全面を考えて、壊れにくい物を与えてしまいがちです。
これはよくありません。
ここで矛盾が発生しています。
親は物を大事に扱いなさいと言う。
子どもが手にしている物は、壊れにくい物ばかり。
壊れにくいものを与えられていると「物を大事に扱うのは、どういうことなのか」が、きちんと理解できません。
落としても、投げても、踏んでも壊れない物です。
どう扱っても大丈夫だと思い、親が「物を大事に扱いなさい」という意味を理解できません。
子どもには実感が湧きません。
たしかに乳幼児のような幼い時期なら、壊れにくい物を与えるのはわかります。
手足が器用ではないので、物を持っても頻繁に落とします。
万が一を考え、壊れにくいものを与えて当然ですね。
しかし、乳幼児ならまだしも、小学生くらいになっても、いまだに壊れにくい物を与えられている子どもがいます。
小学生くらいになれば、ある程度、指先もしっかりしているはずです。
そのくらいの時期になれば、私たち大人が使う同じ物を与えましょう。
壊れやすい物でも結構です。
実感を持たせるためには、体験を直接させて、わからせます。
「乱暴に物を扱うと壊れる。壊れたら修理が必要。場合によっては二度と元には戻らない」
そういう経験をさせてあげるのが一番です。
指先がしっかりする時期になれば、ぜひ壊れやすいものを与えましょう。
たとえば、プラスチックのコップより、ガラスのコップです。
落としたとき、プラスチックのコップは割れませんが、ガラスのコップはすぐ割れます。
子どもは大きなショックを受けることでしょう。
これは「いいショック」です。
自分がうっかり手を滑らせてしまって壊してしまった。
壊れたものは、二度と元には戻らない。
これは自分の扱い方が悪かったせいだ。
こうした悲しい経験をさせてあげましょう。
一度死んだ人間は生き返らないように、物を壊したら元には戻らないという経験ができます。
こういう生々しい経験があって初めて「物を大事に扱うとはどういうことなのか」を理解するようになります。
「物を大事に扱おう」ということが理解できるようになります。
次からは子どもは落とさないように持ち方を工夫したり、いつもより力を入れたりして持つようになるでしょう。
どうすればいいのかを、頭で覚えるより、体で覚えます。
ガラスのコップの1つや2つ壊れたとしても、その費用は知れたものです。
もちろんコップを落とした直後は、破片には注意をしましょう。
破片やけがにさえ注意ができれば、子どもは貴重な経験を得られるはずです。
うっかりしたミスで物を壊し、失うことで、得られることがあるのです。