執筆者:水口貴博

子どもの「外遊び」のすすめ

13

畑仕事を手伝わせると、不思議と味覚が研ぎ澄まされる。

畑仕事を手伝わせると、不思議と味覚が研ぎ澄まされる。 | 子どもの「外遊び」のすすめ

実家は、兼業農家をやっていました。

兼業農家とは、農業以外の仕事にも従事して収入を得ている農家のことをいいます。

農業をメインとする「第1種兼業農家」と、農業をサブとする「第2種兼業農家」との2種類があります。

祖父が現役で働いていたころは「第1種兼業農家」でしたが、父が就職したころから「第2種兼業農家」に変わりました。

祖父も父も農家に触れていたので、私も幼いころから農業に関わっていました。

育てている果物は、主にミカンが中心でした。

実家の庭は、半分以上がミカン畑です。

もちろん庭だけではなく、山の広大な一面を水口家が所有し、大きなミカンの木がずらりと並んでいました。

どのくらい大きいのかというと、山中を小型モノレールが走っているほどです。

小学校の運動場が3つ分くらいの敷地があり、ミカンいっぱいに詰まったバッグを人の手で持ち運ぶのは非現実です。

そのため、小型モノレールを山中に設置して、ミカンを運んでいました。

しかも、そのミカン畑は山奥にあります。

山奥から山道まで、なんと小型ロープウエーがあり、運んでいました。

祖父が現役のころは、ミカンで収入を立てている「第1種兼業農家」でしたので本格的でした。

ミカンは、水をやっていれば自然に育つと思っている人が多いですが、そう単純ではありません。

商品として売るためには、傷がなく、赤々としたよく熟れたミカンが条件です。

そのために、知られていませんが「摘果」という作業があります。

良質の果実を得るために、余分な果実を、未熟なうちにつみ取ることです。

未熟なミカンを先に摘み取ることで、限られた果実に栄養が行き渡りやすくなり、赤々としたミカンに育つようになります。

「農業」という言葉に違和感があるほど、もはや完全に日常の一部でした。

家の手伝いといえば「畑に向かう」という想像すらあるくらいです。

「家の手伝いをしてくれ」と親から言われると、だいたい「ミカンの消毒」「摘果」「摘み取り」のどれかと決まっていました。

そういう大変な行程を経て、ミカンはようやく育っていきます。

人間も、一人前に育てるまでには親は苦労しますが、ミカンでも同じです。

勝手にミカンが熟れてくれると思えばとんでもない。

ほうっておけば、台風で飛ばされたり、虫に食われたり、未熟のままであったりと、ミカンはどれも努力に苦労を重ねた結果です。

そういう目に見えない努力が、私には見えます。

おそらく私はミカンを食べたときのおいしさを、ほかの人よりおいしく感じているのではないかと思います。

苦労が多い分、味覚が研ぎ澄まされます。

自分が作った料理を食べると、いつもよりおいしく感じるのと同じです。

苦労があるからこそ、味を感じようとする意識が強くなり、おいしく感じます。

苦労が大変である反面、ミカンのおいしさを引き立てる効果があります。

大人になった今、ほかの人より味覚が研ぎ澄まされている感じがします。

そういうとき「自分は農家出身でよかったな」と思うのです。

子どもの「外遊び」のすすめ(13)
  • 畑仕事を手伝わせ、果物が1つできるまでの苦労を体験させる。
スポーツは、体の運動だけではない。
脳の運動でもあった!

子どもの「外遊び」のすすめ

  1. 外遊びには、子どもが生きる力に必要な要素がすべて備わっている。
  2. 家の中のゲームだけでは、生きる力を身につけられない。
  3. 自信は、外で遊んでいれば、自然と身につく。
  4. とりあえず行動していれば、自然と話は広がっていく。
  5. 現代は豊かだ。
    それをわからせるには、野外キャンプの体験が一番。
  6. 進んだ現代社会だからこそ、昔の遊びを教える価値がある。
  7. 力任せでは勝てない昔のゲームでは、慣れた大人ほど有利になれる。
  8. 四季のある日本だからこそ、特に外遊びはおすすめ。
  9. なぜ大都会ほど、大自然があるのか。
  10. 自然の音を聞くと、子どもは強く育つ。
  11. 旅行が難しいなら、せめて日帰りのピクニックくらいならできるはず。
  12. 犬と散歩しているときに、口喧嘩は起こらない。
  13. 畑仕事を手伝わせると、不思議と味覚が研ぎ澄まされる。
  14. スポーツは、体の運動だけではない。
    脳の運動でもあった!
  15. 団体競技はどれも、頭を鍛える頭脳ゲームだ。
  16. 免疫力を高めるためには、清潔すぎてはいけない。
  17. 部屋の中は、刺激が限定されやすい。
  18. 「スクリーンで見る立体」と「現実世界の立体」は、脳には似て非なるもの。
  19. どんなにテレビが進化しても、現実世界の刺激にはかなわない。
  20. エアコンは、人の生活を便利にする。
    しかし、頼りすぎると不便にする。
  21. 国語の読解力は、経験が豊富なほどイメージが鮮やかになる。
  22. 体験を優先すると、必ず後で追い上げる力になる。
  23. 立って歩けるようになれば、外遊びをしてもいい時期。
  24. 子どもが泥んこになって帰ってくるのは、一生懸命に外で遊んで帰ってきた証拠。
  25. 真っ暗闇だからこそ、あらゆる怪物をイメージさせられる。
  26. なぜ、ウォーキングマシンは、続きにくいのか。
  27. 門限があるから、遊びの密度が濃くなる。
  28. 私たちには「新しい刺激に触れて、自分の領域を広げたい」という野心と冒険心が眠っている。
  29. 子どもの持ち物に名前さえ書いておけば、迷子になっても怖くない。
  30. 成長のために「遠くへ行ってみたい」と思う子ども。
    安全のために「遠くへ行くな」という親。
    この矛盾が問題だ。

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