私が小学生のころ、同じクラスに登校拒否をする、Mさんという女の子がいました。
初めは毎日、普通に通っていました。
じわじわ来なくなったのではなく、ある日を境に急に、学校に来なくなりました。
その境に何かあったのか。
私は同じクラスで、席も近かったので、そのきっかけを知っています。
まだ低学年でしたが、はっきり覚えています。
ある日、絵を描く授業がありました。
先生が、本物の花を用意して、見ながら絵を描くというテーマでした。
みんな、花を見ながら、絵を描きます。
それぞれが個性ある花を書いていました。
個性とはいえ、小学生の低学年ですから、うまいというほどの絵ではありません。
私も含め、まあ、小学生らしい絵を描いていました。
そんな中、Mさんだけは一風変わった絵を描いていました。
漫画のような花の絵を描いていました。
それを見て先生は怒ります。
「漫画を書く時間じゃありません!」
「きちんと花をよく見て書きなさい!」
その女の子は大泣きしてしまいました。
私もまだ子どもでしたが「そんなに怒らなくてもいいのに」という強い叱り方でした。
先生が大きな声で叱るので、ほかの生徒も絵を描くのをやめ、Mさんの周りに集まっていました。
そういう状況はよくありませんし、そういう状況にさせるような先生もよくありません。
Mさんとしては、下手な絵で先生に叱られ、下手な絵をみんなに見られ、ひどく傷つき、すっかり自信をなくしたのでしょう。
それ以来、Mさんは登校拒否になってしまいました。
子どもなりに、絵を見てどう感じるかは、人それぞれです。
おそらくMさんとしては、漫画のように花が見えたのでしょう。
Mさんは静かで真面目な人です。
決してふざけて描いているような絵ではありませんでした。
Mさんなりに、見たまま描いたら、漫画のようになってしまったのでしょう。
しかし、先生は、Mさんがふざけていると勘違いして、ひどく叱ります。
それはよくありません。
そういうふうに見えたから、そういう絵も受け入れられるはずです。
どう見え、どう感じるのかは、本人にしかわからないことです。
赤いバラの花だから、赤く描かなければいけない決まりはありません。
赤いバラでも、青のような印象を受ければ、青く描いてもいい。
バラでも、ヒマワリのように見えれば、大きく書いてもいい。
絵を描くとはいえ、多種多様です。
漫画のような描き方でもあるはずです。
そこで、親や先生が「花はこういうものだ」という教え方をすると、子どもは伸び悩みます。
まったく叱る場面ではありません。
私は、今になって思います。
もしや、Mさんは何か才能があったのではないかと。
それ以来、Mさんが登校拒否になってしまって会えなくなったので、詳しいことはわかりませんが、可能性はあったはずです。
往々にして、才能のある人の絵は、変な絵です。
ピカソの絵も「きれいな絵」というより「変な絵」です。
大人ですら理解できないもの。
言い方は悪いかもしれませんが、天才の描く絵ほど、子どもが適当に描いたような絵に見えます。
素晴らしい才能は、一般人には理解できないということです。
一般の人には理解できない印象を受け、一風変わった表現をするから、そう見えるだけ。
大人にはふざけているように見えても、才能かもしれません。
もしかしたらMさんは何か才能を秘めていたのかもしれないと、今になって思いました。
あのとき、先生が叱らずに褒めていれば、Mさんはまた別の道を歩んでいたかもしれません。
子どもの感じ方を尊重してあげましょう。
子どもが見たまま、感じたままに絵を描かせてあげましょう。