昔話というのは、強い力があります。
小学生に上がる前のころ、寝る前にいつもお決まりのルールがありました。
母からの昔話です。
母と妹と一緒にベッドの中に入り、私たちが眠るまで聞かせてもらいました。
「早く寝なさい」と言っても、子どもはなかなか素直に言うことを聞きません。
母は、子どもたちをベッドで寝かせるために、寝る前に昔話を聞かせ、自然に寝られるようにしていたのでしょう。
毎日寝る前に、母の昔話を聞くのが楽しみでした。
母の昔話は特徴がありました。
「絵本」を使わないことです。
すべて母の肉声で語られています。
たいていは母が頭で覚えているものを、母なりの調子で語ります。
時には、母なりに話の内容をアレンジしたオリジナルの昔話を聞くこともありました。
絵本ももちろんいいですが、声のみの昔話は、さらに刺激があります。
子どもの想像力を高める効果があるからです。
絵本の場合、絵があるので読みやすいですが、絵があるからこそ正解が限定されます。
絵本で登場する、人物像は、絵本に描かれているのが正解です。
しかし、言葉だけの場合はどうでしょうか。
昔話を聞くと、子どもなりに想像を膨らませます。
「怖い赤鬼が……」とくれば、あなたはどのような赤鬼を想像しますか。
想像には正解がありません。
10人いれば、10とおりの赤鬼が登場します。
赤鬼は大きくてもいいです。
小さくてもいい。
少し痩せ気味の赤鬼かもしれませんし、小太りかもしれませんね。
眉間にしわが寄せている鬼かもしれませんし、ぼさぼさの髪をした赤鬼を想像する人もいるでしょう。
どんな想像でもいい。
あらゆる想像が正解です。
大切なことは、めいっぱい想像力を働かせるということです。
子どもは親からの昔話を聞きながら、自分なりに風景や登場人物など想像します。
そういう時間は、楽しいです。
長く記憶に残り続けます。
なにより親の肉声というのがいい。
親の声なら子どもは安心して聞けますし、リラックスができます。
寝つきの悪い子には、昔話です。
子どもは親の話を聞きながら想像力を膨らませます。
気づけば、気持ちよさそうに眠っているのです。