「マザーコンプレックス」という言葉をご存じですか。
母親に対して、子どもが強い愛着や執着を持つ状態をいいます。
これまで長い間、息子は温かい母親の愛情を受けて育ってきました。
夫は妻と結婚して、形式上は妻と一緒に暮らしますが、精神的な面では、妻より母親に依存したままの状態です。
優しい母親の温かさに執着し、結婚してからも妻より母親から離れられません。
すべての男性には、幼いころ、マザーコンプレックスがあります。
たっぷり母親の愛情を受けて育つ時期がありますし、母親がいないと生きていけない状態です。
何から何まで面倒を見てくれる母親を、理想像として思います。
はるか昔「結婚するならお母さんと結婚する」と思っていた時期があることでしょう。
別に幼い時期に思うことは悪いことではなく、それだけ母を認め、慕い、深い愛情を受けて育ってきているという健全な証拠です。
もちろん温かさを忘れる必要はありませんが、いずれその執着から卒業することは必要です。
母からの卒業には、早い人と遅い人とがいます。
卒業の早い人は、10代半ばから感じ始めます。
母親の愛情に包まれるのは居心地がいいが、いつまでもこのままではいけないと危機感を抱き始めます。
居心地はいいが、どこか成長しきれていない自分に気づく。
優しい母親が間近にいると、やりづらいです。
母の近くにいては、なかなか自立できる機会に恵まれません。
母親と一緒にいることで、ある程度まで成長できても、あるところまでくれば滞ってしまう。
「このままではいけない!」と思った男性は、自分から親元を離れる決意をします。
それが「一人暮らし」です。
とりあえず親元から離れて、1人で暮らすことになります。
今まで母親に頼っていたことを、自分一人でこなすことになります。
自分の考えと責任で行動するので、今までとは違った空気を感じる。
もちろん学校や就職の関係で一人暮らしをせざるを得ない場合もありますが、決意できるのは、心のどこかで自立心がある証拠です。
母親がそばにいるからこそできる成長もありますが、そばにいるからこそできない成長もある。
ある程度の年齢までくれば、男は母親がそばにいてはできない成長を求め、家を飛び出します。
別に母親に対して冷たくなったわけではなく、成長を求めた向上の現れです。
若々しい時期に、じっとしている自分に絶えられず、家を飛び出します。
それが自立の第一歩です。
一方、卒業が遅い男性は、どうでしょうか。
親元の居心地がいいから「もう少し、もう少し」と、親から離れる決断を先送りにします。
本当にいつまでもそのままだと、本当に自立できなくなります。
決断を後伸ばしにしても、最終期限は結婚式までです。
結婚してからも、マザーコンプレックスが続いているとどうなるでしょうか。
相談は、妻ではなく、母親。
甘えるのも、妻ではなく、母親。
助けを求めるのも、妻ではなく、母親。
妻は夫を見ていても、肝心の夫は母親を見ている状態です。
これではすれ違って当然であり、夫婦関係も悪くなって当然です。
本来は、結婚すれば、夫の注意は母親から妻へと転換する必要があります。
もちろん母親を無視するわけではなく、依存を卒業するということです。
もちろん難しい課題もあります。
たとえば、2世帯住宅の場合です。
妻と一緒に実の親と暮らすので、夫としては「母親から卒業した」という感が拭いきれません。
拭いきれなくても、拭うことです。
ずっと母親との深い関係のまま妻と一緒に暮らしてしまうと、妻との関係が薄い状態になってしまいます。
結婚した妻がいますから、これから密接な関係になるのは、母親ではなく妻です。
「妻となかなか仲良くなれない」
問題は妻にあるように思えますが、もしや自分の注意が妻ではなく、母親に向いているからではありませんか。
母親を大切にしながらも、母親からは卒業です。
この「精神的な区切り」をつける必要があるのです。