高校1年のころ、虫歯になって歯医者に行きました。
たまたま歯医者の受付のお姉さんと仲良くなり、会話の中でふと、意味ありげな言葉を言われました。
「若くていいね。今のうちに一生懸命に勉強してね」
高校2年のころです。
自転車に乗って下校途中、目の前の信号が赤になったので、横断歩道で青になるのを待っていました。
ぼうっとしていると、隣にいた中年のおじさんが急に話しかけてきました。
「高校生かね。今のうちに一生懸命に勉強しろよ」と一言言って、去っていきました。
高校時代に通っていた塾がありました。
その塾の先生はいつも「今のうちに一生懸命に勉強しておかないと大変なことになるぞ」と言っていました。
私が高校を卒業し、アメリカ留学中、ナナさんという29歳の女性と知り合いました。
ナナさんは一度社会を経験した後、勉強するために学生に戻っていました。
「なぜ今になって学生に戻っているの?」と尋ねると、真剣な顔で言いました。
「大人になって勉強がしたくなったから。貴博君も今のうちに勉強してね」と。
私が学生時代、両親にアルバイトをしたいと言ったことがありました。
両親は、猛烈に大反対しました。
「学生の仕事は勉強! お金を稼ぐためにアルバイトをするなら、そのお金は出すから、今は勉強に集中してほしい」と。
若いときは、この現象が不思議でたまりませんでした。
大人たちが、陰で口裏を合わせているかのように、同じ言葉を言います。
また、周りにいる大人たちが「勉強、勉強」と語りかけてくるのは、少し耳障りに感じる時期です。
知らない大人からも、急に「勉強したほうがいいよ」と忠告されるくらいです。
当時は、理解できなかったことでした。
今度は社会人である私が、学生であるあなたに語りかけたい言葉があります。
それが「今のうちに勉強してね」という言葉です。
なんと、私もかつての大人たちと同じ言葉を自然と口にするようになりました。
自分が社会人になり、ようやく理由がわかりました。
大人から見れば、学生たちが羨ましくてたまらない。
大人になると、自分の知識が不足していることを痛感します。
社会の勉強、漢字の勉強、歴史の事情など、勉強することはたくさん出てきます。
「学生時代もう少し勉強していれば、今はもう少し理解できていたはずだろう」
そう思います。
それは事実です。
テレビで流れるニュースは、実は学生時代に培った読解力や漢字の力などが土台になっています。
また、テレビで流れるニュースや歴史系番組など、理解をする背景には学生時代に学んだ歴史が必ず絡んでいます。
そもそも私たちが生きている資本主義社会も、いきなり最初からあったわけではなく、さまざまな複雑な経緯があります。
もっとたくさん勉強していれば、もっと深く理解でき、いろいろなことがわかるようになります。
見えなかったことが見えたはず。
感じられなかった感情も味わえたはず。
もっと華やかな人生になったはず。
人生全体が大きく変わったことでしょう。
そう思います。
大人になれば、学生時代にどんなに勉強した人でも、知識不足を必ず感じるようになります。
「もっと勉強しておくべきだった」と後悔すると同時に学生たちに「しっかり勉強したほうがいい」とアドバイスしたくなります。
私も学生時代は、一生懸命に勉強したほうでした。
おかげでこれだけたくさん文章を書いていますが、そんな私でも「知識不足だ。もっと勉強しておくべきだった」と思います。
死ぬほど勉強して大丈夫です。
そんなことをいつも思っています。
私も今、若くて体力があるあなたが羨ましい。
だからつい、面識のないあなたに急に語りかけたくなります。
大人になるまで、まだ時間はたくさんあります。
「今のうちに一生懸命に勉強してね」と。
この言葉の裏には、そうした壮大で深い人生観があるのだと、大人になってから理解できたのです。