汗が出る汗腺には、2種類あります。
「エクリン腺」と「アポクリン腺」です。
エクリン腺から出る汗は、ほぼ無臭です。
99パーセント以上が、水分です。
一方、アポクリン腺から出る汗も、最初はほぼ無臭です。
ただし、においの原因がたっぷり含まれているので、すぐ強いにおいが漂い始めます。
同じ汗とはいえ、別物です。
ここで、素朴な疑問が湧いてきませんか。
なぜ、2種類の汗が存在する必要があるのでしょうか。
汗なら、1種類で十分だろうと思いませんか。
実は、エクリン腺とアポクリン腺の最大の違いは、成分ではありません。
「役割」です。
エクリン腺から出る汗の役割は、体温を下げたり摩擦を作ったりするためです。
一方、アポクリン腺から出る汗の役割は、においを作ることそのものです。
アポクリン腺からの汗がにおうことが異常ではなく、そもそもにおいを作るのが目的なのです。
では、なぜにおいを作る必要があったのでしょうか。
アポクリン腺からのにおいには「種の繁栄」という、深い意味があるのです。
人がまだ人になる前の、はるか遠い昔です。
人は、自分と同じにおいがする人を、嫌う傾向があります。
人に限らず、そもそも生物全体的に「自分と同じにおいがする人を嫌う」という傾向があります。
種の多様性を維持するためです。
自分と同じにおいは、同族です。
同族との間で子どもを作ってばかりでは、同じような遺伝子を持つ人ばかりが増えます。
同じような遺伝子ばかりでは、ある日、急な環境の変化がやってきたとき、種が全滅する恐れがあります。
そうならないように、自分とは異なる遺伝子を持つ人と結ばれようとします。
これが種の多様性です。
すなわち、自分と異なるにおいの人に、魅力を感じる本能があるのです。
思春期を迎えた娘が、父のことを嫌いになるのも、においが同じになるからです。
家族間で仲が悪くなりやすいのも、親元から離れさせようとする意味があります。
種の存続と多様性のため「親元から離れたくなるような仕組み」「同じにおいを嫌う仕組み」が、本能にインプットされています。
では、どう自分と同族かを確かめるのかというと、においです。
すなわち、アポクリン腺は「個体の識別」や「フェロモン」という意味合いがあるのです。
アポクリン腺からのにおいによって、同族かどうかを、識別しました。
そのため、アポクリン腺は、体の特殊な部分に存在する特徴があります。
脇の下、性器の周辺、耳の穴など、性的なニュアンスが感じられる部分に集中しているのです。
しかし、人類は進化しました。
進化の過程において、人が衣類を身につけたり、視力が向上したりするようになりました。
においによる識別がだんだん不要になり、アポクリン腺も退化していったのです。
アポクリン腺は、そうした昔からの名残が強く残っている状態です。
そのにおいがあるからこそ、人間は、ここまで繁栄できたのです。