父と一緒に散歩していると、よくぶつぶつ話します。
独り言です。
歩いていると、目の前に看板があり、書かれている文字を読んでいます。
カラオケの看板があれば「カラオケ」と小さな声でぶつぶつ言います。
印鑑の専門店の看板に「実印、翌日OK。名刺スピード仕上げ。一級技能士の店」と書かれていると、そのまま口に出して言います。
隣にいると、結構恥ずかしい。
ある日、散歩の途中で池の前に来ました。
家の前には「ここで遊んではいけません。危険です」と書かれていました。
心の中で読めばいいものを、父はわざわざ「ここで遊んではいけません。危険です」と声に出して読みます。
「いちいち声に出さなくてもいいよ」と思います。
笑わせようとしているのかと、勘違いします。
実は、そうではありません。
これはぼけてしまっているからではありません。
対象を、より深く身近に感じようとしているからです。
たとえば、今あなたの目の前には何がありますか。
灰色のパソコンが目の前にあるなら「灰色のパソコン」と言ってみましょう。
つやのある携帯電話が目の前にあるなら「つやのある携帯電話」と言ってみましょう。
すると、どうでしょう。
印象が、ぱっと変わった感覚が得られるのではないでしょうか。
対象が今までより、ぐっと身近に感じられるようになるはずです。
灰色であったり、つやがあったりなど、普段は当たり前で特に気に留めていなかったことが、意識できます。
散歩の達人は、歩いている途中、目に映る物を見てはぶつぶついいます。
より散歩を楽しもうとした結果、いつの間にか、目に映った物事を口にする習慣が身についたのです。