私は小学生と中学生のころ「ミナタカ」というニックネームで呼ばれていました。
当時、同じ学年に、もう1人「タカヒロ」という名前の人がいました。
「タカヒロ君」という呼び名がぶつかって、どちらのタカヒロを指しているのかわかりませんでした。
そのため、クラスの誰が言い始めたのか「ミナクチ・タカヒロ」を省略して「ミナタカ」と呼び始める人が現れました。
たしかにミナタカという呼び名なら、名字にしても名前にしても珍しいので誰ともかぶることはありません。
「ミナタカ」という響きのせいか、この呼び方はあっという間にクラス内に広がりました。
気づけば、クラスどころか学年全体で、私のことを「ミナタカ」と呼ぶようになっていました。
変なニックネームで、実のところ、私は気に入っていませんでした。
しかし、この呼び方になってから、不思議な出来事が起こるようになりました。
急に人が親しく近づいてくるようになりました。
あまり話したことのない人から「ミナタカ君」と話しかけられると、なぜか昔からの友人のように思えます。
新任の先生が、私のニックネームを「ミナタカ」であることを知ると、さっそく使っていました。
「ミナタカ君、この問題、解けるかな」と話しかけられると、なぜか先生まで友人のように思えます。
ニックネームには、不思議な効果があります。
呼ぶ側も呼ばれる側も、ニックネームで通すことで、堅苦しさが取り払われて仲良くなりやすくなります。
「水口さん」や「貴博さん」という名字や名前での呼び方も悪くはないですが、どこか形式張ったところがあります。
形式を無視したニックネームは、逆に親密な印象を与えるのです。