私の職場に、幹事の名人がいます。
藤田さんという小太りの30代半ばの男性です。
新人が頻繁に出入りする職場のため、定期的に歓迎会や送別会があります。
宴会の案内がくると言えば、必ず藤田さんからでした。
彼とは面識がありませんでしたが、頻繁にくる宴会の案内がきっかけで彼の名前を知るようになったくらいです。
たしかに幹事をするだけのことはありました。
店の選び方、手配、司会役がうまいのです。
彼に幹事をお願いすると、スムーズに進みます。
慣れている人の手さばきは、やはり違います。
彼に宴会で店や料金の相談をすると、的確なアドバイスがいつも即答で返ってきます。
さすがです。
今回ここで書いている宴会における幹事のアドバイスも、実は藤田さんから教わったものがかなりあります。
幹事として、彼ほど頼りになる人はいません。
そんな藤田さんに、とある質問をしてみました。
「普段は、どのくらいお酒を飲まれているんですか」
幹事を頻繁にするくらいですから、お酒を飲みすぎて体調を壊していないか心配しました。
すると、まったく意外な返事が返ってきました。
「とんでもない。実はお酒はまったく飲めないんですよ」
私は「ええ!」と大声を上げてしまいました。
冗談で、私を騙そうとしているのかと思ったくらいです。
彼の言葉を信じるのに、しばらく時間がかかりました。
幹事をするくらいですから、酒飲みだろうと思っていただけに、かなり度肝を抜かれたのです。
聞くところによると、コップ1杯の軽い酒すら、飲めないそうです。
素晴らしい下戸です。
しかし、下戸でも、幹事としては一流なのです。
「じゃあ、なぜ幹事をしているのか」と尋ねると「みんながぜひ藤田さんにやってほしい」とお願いをされるからとのことです。
彼には人望がありました。
お酒を飲むことはできませんが、積極性があり、まとめ役としての能力が高い人でした。
そうした彼の能力が買われて、幹事をしていたのです。
「へえ。そういうこともあるのだ」
お酒が飲めないのは幹事として致命的であると思っていましたが、彼の例を見て、そうではないと思ったのです。
幹事として必要なのは、やる気です。
幹事は、やる気があれば、誰でもできる。
そう思った一件でした。