世の中の景気がよくなり、経営も軌道に乗ったときに、経営者は間違いを犯しやすくなります。
見栄を張って、自社ビルを建てようとします。
「うちの会社は自社ビルです」という一言を言いたいために、少し思い切って購入しようとします。
借りるのはかっこ悪いので、自社のビルを建てて、法人としての強さをアピールしようとします。
しかし、夢を壊すようですが、不動産業界では次のような有名なジンクスがあります。
「自社ビルを建てた会社は、倒産する」
経営者にとって、心に留めておきたい格言です。
当然ですが、自社ビルを購入するのは膨大な費用がかかります。
銀行からお金を借りて長期のローンを組み、長い期間、高額のローンを返済し続けなければいけません。
たとえば、20年にも及ぶ長いローンを組んだとしましょう。
景気がいいときは、毎月の返済に苦労はしません。
しかし、いつまでも好景気が続くわけではありません。
景気には波があり、いいときもあれば、悪いときもあります。
いえ、好景気の後こそ、注意が必要です。
以前は飛ぶように売れた商品やサービスも、ほんの数年後には、まったく相手にされなくなるケースは珍しくありません。
景気がいいときを基準にしたからいけません。
数年後に景気が悪くなったときに、やってくるであろう景気の悪化に対応できなくなり、経営が苦しくなります。
本来、景気が悪くなれば、不況を乗り越える対策の1つとして、家賃の安い事務所に移動します。
もちろん立地条件も職場環境も悪くなりますが、倒産に比べればはるかにましです。
そのほかにも生産量を抑えたり、原材料を変更したりなど、調整をします。
賢い経営者は、こうして不況を乗り越えます。
しかし、自社ビルは不動産です。
一度建ててしまえば、移動することができません。
世の中のあらゆる経営状況に、対応できなくなります。
どんなに景気が悪くなっても、毎月のローンだけは、支払いをしなければならない。
毎月のローンの支払いに経営が押されてしまい、最悪、つぶれてしまいます。
「私は経営者じゃない。こんな話は自分には関係ない」
ちょっと待ってください。
ここからが肝心です。
「ビル」という単位は、たしかに一般のかたには規模の大きすぎる話です。
しかし「賃貸部屋と自社ビル」という言葉を「アパートと一戸建て」という言葉に言い換えましょう。
言葉は違っていても、言わんとしているのは同じです。
さて、言い換えて説明しますが、私たち一般市民でも、同じような過ちをしてしまいます。
世の中の景気がよくなり、収入も軌道に乗ったときに、見栄を張って「一戸建て」を購入しようとします。
「アパート暮らしは嫌なので、一戸建てを持ちたい」という心理と同じです。
「一国一城のあるじになり、ビッグになろう」
「一戸建てを持って、初めて一人前」
「自分だけの城を建てる」
こういう宣伝に踊らされます。
景気がいいとき調子に乗って、不動産を購入してしまいます。
その後の行く末は、先の自社ビルと同じ運命です。
「景気がいいとき」を基準に考えているから、後に失敗します。
景気がいいときは返済ができても、不況がやってきたときに返済ができなくなり、家計がぼろぼろになります。
自社ビルも一戸建ても、建てるのではなく、借ります。
見栄で購入を決断するのは、賢い行動ではありません。
諸行無常。
さまざまな変化に対応できるように、建てるのではなく、借りるのが最も融通が利くのです。