スーツの寿命を縮める原因の代表は、2つあります。
汗とほこりです。
「スーツに汗が付着すると、寿命を縮める。きちんと虫干しをしよう」
「ほこりはスーツを傷める。こまめにブラッシングをしよう」
そうしたスーツの手入れのアドバイスを、一度は聞いたことがあるでしょう。
ところで、ここで疑問が浮かびます。
普通に考えれば、さほど、大敵とは思えないのではないでしょうか。
汗で湿ったとしても、乾燥すれば、元に戻りそうな気がします。
ほこりも、きちんとブラッシングすれば、汚れは落ちるはずです。
たしかに感覚としてはそうかもしれませんが、誤解です。
汗とほこりの悪影響は少し奥が深く、単純な話ではないのです。
最大の問題点は、ペーハー値。
汗の湿気も問題ですが、それ以上に問題なのは、汗のペーハー値です。
汗は基本的に、弱酸性です。
ところが、脂っこい食事に偏っていたり、運動不足で汗をかく習慣がなかったりする人は、状況が変わります。
汗にミネラル分が混じるため、アルカリ性に傾きます。
スーツの素材はアルカリ性が苦手であり、触れると、スーツの劣化を早めます。
アルカリ性は、タンパク質を溶かす性質があります。
アルカリ性の温泉に入ると、肌がぬるぬるするのは、皮膚のタンパク質が溶けているからです。
こうした状況がスーツでも起こると思えば、いかに悪影響であるか、想像できるでしょう。
ウール・シルク・カシミヤなど、タンパク質が含まれる動物性繊維は、わずかなアルカリ性でも敏感に反応します。
あっという間に劣化させ、素材をダメにするのです。
ちなみに、ほこりのペーハー値もアルカリ性であり、悪影響は同じ考え方です。
さらにやっかいなのが、一度色あせたスーツは、元に戻せないことです。
ボタンが取れれば、縫い直して補修できますが、スーツの色あせは、対処が不可能です。
こうした事情から「汗とほこりはスーツの大敵」と言われているのです。
私たちにとっては、普通に感じる汗とほこりですが、スーツにとっては、恐怖の存在なのです。