マナーといえば、恥ずかしくない態度や立ち振る舞いと思ってしまいがちです。
上品で、かっこよく、迷惑にならない振る舞いが、大切という思い込みです。
しかし、信じられないことに、恥ずかしいことをやりに行くことが、マナーということもあります。
おそらく意外に思われることでしょう。
恥ずかしいことをやりに行くというマナーは、誰もが嫌がる初めての経験に当てはまります。
たとえば、初めての経験に挑戦するときです。
私が学生時代、難しい問題をわからないのにやりたがろうとする、マコト君という生徒がいました。
「この問題、誰かやってみたい人」と難しそうな問題の挑戦者を探すとき、みんな恥をかきたくないからと、手をあげません。
みんなの前で、恥ずかしい思いをしたくないのです。
こんなとき、あえて恥ずかしいことをやりに行こうと手をあげることができる人は、勇敢です。
「私にやらせてください」
マコト君が手をあげ、周りからの視線を集めます。
誰もがどうすればいいのかわからない問題に立ち向かうとき、恥ずかしい思いをすることになります。
しかし、それでもマコト君は、恥ずかしい視線を浴びながら、笑ってごまかします。
不思議なことにこんなときの笑いの表情は「余裕」と感じてしまうのです。
問題がうまく解けず、恥をかくだけかいて、席に戻るマコト君は敗者ではありましたが、みんなには勝者でした。
1人が恥をかいたおかげで、次の人が手をあげやすくなったからです。
沈黙が続いた授業も、1人がきっかけになり活気が出て、ほかの生徒も動き始めるようになります。
ムードメーカーと言ってもいいでしょう。
次の人がトライしやすい雰囲気を作ってくれました。
1人でもトライしている人がいると、次の人もトライしやすくなります。
マコト君は、いつも授業のよい雰囲気を作るムードメーカーでした。
マナーといえば、恥ずかしくないことだけではありません。
恥ずかしいことをやりに行くというマナーも、時には大切なのです。
あなたが代表して恥をかきに行くことが、ほかの人を助けることになるのですから。